自分が思う“豊かな暮らし”を体現したかった。『emic:etic』オーナー・山下公子さんInterview

自分が思う“豊かな暮らし”を体現したかった。
『emic:etic』オーナー・山下公子さんInterview

「自分の好きな世界観」や「自分らしさ」を大切にして暮らす方の住まいにスポットをあてる企画「おうち、おじゃまします」。当店のオーナー・谷が、その方のお宅へ伺い、家や暮らしに対するこだわりや考え方についてお話をお聞きします。

第3回は『emic:etic(エミックエティック)』オーナー・山下公子さんです。

『emic:etic』のアトリエがあるのは、かつて芸術家の卵たちが暮らし「池袋モンパルナス」と呼ばれたエリアにある白い建物。6部屋のアトリエを含む26戸の集合住宅『Appartement Montparnasse(アパルトマントモンパルナス)』にあります。

東京メトロ有楽町線・千川駅から徒歩5分ほど、閑静な住宅街に突如として現れる白い建物。これが『Appartement Montparnasse』です。

前編では、山下さんがアトリエ『emic:etic』を持つきっかけやフランスでのお話を、後編では『Appartement Montparnasse』のこと、おうちのことについてお話しを伺いました。

※記事中に動画もございます。ぜひご覧になってください。

山下 公子さん

『emic:etic(エミックエティック)』のオーナー、デザイナー。ヴィンテージ材料を用いた繊細なアクセサリーやバッグ、手仕事の痕跡を感じさせる服などを展開している。
建築デザインを学び空間デザイナーとして活動。その後フランスでヴィンテージの洋服のバイイング業務及びフランスの情報提供する仕事をするなか、独学で洋服やアクセサリー作りを行い、2002年より表参道にアトリエをかまえ『emic:etic』を立ち上げる。
現在アトリエ兼住居があるのは夫妻が企画に参加した建物『Appartement Montparnasse(アパルトマントモンパルナス)』。

ホームページ|emic:etic
Instagram|@emic_etic

初めてのフランスで受けた衝撃。
込み上げてきた想いを空間で表現したかった

山下さんが手がけるお洋服やアクセサリー、そしてアトリエの空間からはフランスのエスプリを感じずにはいられません。もともとフランスを好きになったきっかけがあったのでしょうか。

「はじめて渡仏したのは、20歳くらいの頃。姉とふたりで『行きたい場所に行こう!』と旅行に出かけたんです。姉はイタリア、私はフランスで。どうしてフランスだったのか今となっては思い出せないのですが、ずっとフランスに行きたいという気持ちがありました。
そのときにとても衝撃を受けて。フランスの街並みもそうですし、すべてそこに存在するものが当たり前のように美しく、あ、、でも、、、そうではない所もありましたが(笑)。自分の心の奥深くに残るものがありました」。

詩的な街並み、愛しみ受け継がれる古き良きものたち、そこに暮らす人の何気ない仕草、目に入ってくるフランスのすべての景色が山下さんの心を奮い立たせたと言います。

「だから私の場合、洋服が作りたいというよりも、『あの街に似合うニュアンスある女性になりたい』という思いが強く。きっとそのためには、服だけでなく、日々の暮らしの中から紡ぎ出される大切な何かがあるように思え。お洋服やアクセサリーなどの目に見えるモノだけではなく、暮らしも自分が思う豊かなものにしていきたいという思いを強く感じたんです」。

小針子さんたちが手仕事をする、アトリエスペース

もともとは、建築の学校でインテリアや空間デザインについて学ばれていた山下さん。お洋服との接点は子どもの頃からあったそう。

「私の母はすごく洋服が好きで、私と姉が幼い頃は自分の服をリメイクしておそろいを作ってくれていました。母自身も縫製の仕事をしていたときもあって、本当に洋服が好きで、一緒に洋服を見に行ったことをなんとなく覚えていますね。その影響はすごく大きいですね。だから洋服がずっと自分の中にあって、ただ私は空間をよくしたいという気持ちが強く。私が初めてフランスを訪れたあの日、その想いが自分のなかで込み上げてきたんです」。

古い貝でつくられたアクセサリー。まるでディスプレイの1つのように目を惹きつける

パリコレ全盛期の刺激のある日々。
すべてが今につながる大切な経験に

学校を卒業後、建築の会社で2年間ディスプレイの仕事をメインで行っていた山下さん。建築の会社で働きつつも、洋服とフランスへの興味は尽きなかったのだとか。あるとき、フランス語の勉強をしていると、知り合いから「だったら一緒に仕事をしてみない?」と誘われて、念願のフランスへ!

知り合いのご夫婦のお店で、ヴィンテージの服の買い付けから始まり、洋服のリメイクなど、どんどん仕事を任されることに。

「そのときの経験は本当に大きかったです。一緒に働く人たちもパワフルでしたし(笑)。いろんなことを任せてもらえて、あるときは『写真を撮ってきて』と、パリコレの写真を撮りにいくことも。パリの夜のウィンドウの写真、ストリートの写真、パリコレの写真、買い付け…と、パリに行っては日本に帰ってきて資料をまとめるということを何年か続けていました。このことは自分を強くしてくれましたし、本当にいろんなものを見て、経験させてもらったことが今につながっていると思います」。

当時、パリコレ全盛期。一緒に仕事をしていたご夫婦は日本のアパレル会社向けに海外のファッショントレンドなどの流行予測をしていたそう。そのための写真撮影や資料集め、リサーチなど、今となっては考えられないかもしれませんが、現地へ行って、実際に見て、商品を仕入れて…と、本当に刺激のある日々だったことが想像されます。

『emic:etic』は、文化人類学の用語からとった造語で、「emic」と「etic」という背反する2つの間に、今までにない新しいものができるという意味合いがあるそう

かけたその佇まいも美しい『emic:etic』のお洋服たち

そのうち、そのご夫婦がオリジナルも始めることになり、「自分でもいつかブランドを持ちたい」という思いが強くなったそう。

「ただ、先ほどもお話したように私は服作りだけがやりたかったわけではないんです。フランスを訪れたあの日に沸き起こった情感と想いを形にできたらと。そのためには洋服やアクセサリーだけではなく、空間全体で表現したいと思いアトリエを持つことに決めました。
だからこそ、お客さまにもこの空間に訪れていただけたことで何かを感じ、私があの日あの地で感じた溢れる気持ちと同じような印象を持ち帰っていただける、そんな場でありたいと思っています」。

陶器の欠片からつくられたピアス(右)。愛犬が割ってしまった器からこのアイデアが生まれた

フランスは原点の場所。
目で見て、触って、感じとってくる旅

 いやあ、本当に素敵なアトリエですね、ここが日本だということを忘れてしまいます(笑)。最近はコロナ禍ということもあってなかなかフランスに行けないですよね。僕は今年も断念しました…。

山下さん ありがとうございます。そうですよね、これまでは1年に1回とか2年に1回ほどフランスに行っていました。

 旅行がメインですか?買い付けも?

蚤の市で見つけたお気に入りの針山(写真右)

山下さん 蚤の市に行ってきて「これ、なにかに使えるんじゃないかな?」という発見はありますね。でも、あるときからはもう仕入れではなく、行くことで自分の気持ちを再確認するという意味で行っているかもしれません、やっぱり自分の原点の場所ですし。そういうときは、もう1カ国自分が気になる場所に行くようにしています。何かモノを買ってくるというよりは、目で見て色々感じたりするなかで、得るものがあるので。

 ほう。

山下さん 例えば色もそうですよね、国によって目に付くものが違い、色々あり。日本に帰ってきたときに、今回の旅の思い出が残像として浮かんでくるんです。

 どこか印象深い国はありました?

山下さん 2年前に行った、スリランカのジェフリーバワ!あの方の建築を目の前にした時、涙が溢れ…。これをカタチにするには、とてつもない努力も才能も必要だっただろうなとか、どんな思いでここを創ったんだろうと。だから今は買い付けというよりも色々なものを見てくるという思いが強いのかもしれません。やっぱりそうして見てきたことや感じたものは自分のモノづくりにも表れてくるのかなと思うんです。

 そういう視点でみると、また違ったことが見えてきそうです。僕は仕事としての買い付けでもあるので…。もちろん好きなものとか興味がわくものですけど。だから、そういう視点で物事を見ることができるというのが本当にすごいなあ。

山下さん 難しいですよね、仕事となると。良いものにめぐり会ったとき、どうしていますか?愛着が湧き、手放せなくなってしまいそうですね。

 最近はもうあんまりないですけど、でも本質的にはアンティークが好きなので、見るとやっぱりいいなって思います。

山下さん 私もあるとき、スーッと前のような熱がなくなったときもあります。でもアンティークにはアンティークにしかない良さがやっぱりあって。それはこの建物をつくるときにも大切にしたところでもあります。

 コロナ禍ということもあって、今は家の中のこだわりを持たれる方が本当にすごく増えていますよね。特に日本国内のモノの価値が見直されたというか、逆にそれが新鮮に見えてきて。高いものでも、理由や背景を知って買う人も増えていて、そういう文化が成熟してきたのかなと。この1〜2年、僕自身もそうですけど、面白いなと思っています。

 

***

 

後編では、『Appartement Montparnasse』のこと、山下さんのおうちのことなどについてお話を伺いました。どうぞお楽しみに。

お家、おじゃまします。 #03

『emicetic』オーナー・山下公子さんインタビュー

 

前編|2021.12.01
自分が思う“豊かな暮らし”を体現したかった。『emic:etic』オーナー・山下公子さん


後編|2021.12.08
池袋・千川にパリのモンパルナスが!?「emic:etic」オーナー・山下公子さん

photo & movie/satoshi shirahama

2021.12.01

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