「ガラスはもっと自由になれる」

Interview
大家具子

photo by Tomoko Oya

鳥取県在住のガラス作家、大家具子さん。

彼女の自由で伸びやかな作品は、
どのようにして生まれるのでしょうか。

制作についてやガラスへの思い、
愛用の「Arts&Crafts」について
うかがいました。

学生時代に作家活動をスタート

1.作家として活動を始めたきっかけを教えてください。

大学生時代、日本クラフト展に出品した作品をあるお店の方に気に入っていただき、それをそのまま商品として卸すことになったのがきっかけです。
はじめは「私まだ学生ですけど、本当にいいんですか!?」という感じで(笑)、自分でも驚きました。
でも、そのお店の当時のオーナーの好みと、私自身のやりたい方向性が近かったこともあり、ありがたいことに、その後もしばらくお取引が続きました。
学生の身でまだ何も知らなかったので、そのお店とのご縁のおかげで、「ものを作って売るというのはこういうことなんだ」と、手探りながら覚えていった感じです。

作家活動の原点、20年以上つくり続けているスクエア

2.作家として最初に制作したアイテム(はじめて販売したアイテム)を教えてください。

1. の時に制作した、スクエアです。
スクエアは、その時から今も作り続けているので、かれこれ20年以上になります。
昔は技術も未熟だったので、今よりも、もっと薄くて・・・油揚げみたいだったかも(笑)
自分ではもう手元に残していないんですが、友達の家に遊びに行って、昔の自分の作品(スクエア)を目にしたりすると、我ながら、結構びっくりしちゃうこともあります。
でもはじめから、作りたい作品のイメージは変わらなくて。
ふっくらとした、柔らかい表情のガラスが作りたかったんです。
ただ、技術が伴っていないから表現しにくかった。
20年くらい作り続けて、今は技術がついてきて、やっと自分が思い描く理想の形に少しはなってきたかな、という感じです。

square(スクエア)/20年以上つくり続けている代表的な作品

宙吹きガラスの、もっと自由な形を模索して

3.スクエアが生まれた経緯を、もう少し詳しく教えてください。

宙吹きガラスは、竿に巻き付けたガラスをくるくる回しながら成形していくので、同心円の形状のものができるのが基本です。
でも、私は「そこから外れてみたい」という思いがあり、学生時代からずっと、宙吹きガラスならではの、もっと自由な形を模索していたと思います。
そんなことを思いながらスクエアが生まれました。
台に置いて成形するわけではなく、息を入れながら、宙でゆらゆらさせながら形作っていきます。
吹いて、ハサミで切っただけの形なので、底が平らではないので揺れるし、お花を挿すのにもコツがいるし(笑)。
見た目もとっても特殊だけど、あの膨らみと伸びやかさは、宙吹きガラスでしか表現できないものだと思うので。
だからこそ、あえて色はつけていません。
素材のままの色で、シンプルにただ宙吹きガラスの美しさを感じてもらえればと思っています。

「こんな表情も素敵でしょ?」
ガラスが教えてくれることを大切に

4.制作するうえでのインスピレーション、大切にしていることはありますか?

アイテムは、自分の日常生活の中で「こんなのあったらいいかも!」という思いつきから生まれます。
例えば、お皿だったら「豆のサラダを盛ったらいいかも」とか、花器だったら「このお花をこんなふうに生けよう」とか、そのイメージは、かなり具体的です。
制作の段階で、使っているシーンのイメージはかなり明確で、それは日常生活からのインスピレーションが多くあると思います。

あと、工房ではたまに、制作するでもなく、竿にガラスを巻きつけてただいろいろ、引っ張ったり捻ったり伸ばしたりして「ガラスと遊ぶ」時間があるんですけど、熔けたガラスの独特なリズムに合わせて体を動かしていると、そのうち「こんな表情も素敵でしょ」と、ガラスが教えてくれることがあるんです。
その表情を少しずつ心にストックしておいて、新しい作品づくりに活かします。
そんなふうにガラスが教えてくれることを、とても大切にしています。

春夏秋冬、変化するガラスの表情を楽しんで

5.ご自身の作品をどう楽しんでいただきたいですか

窯の温度は1300℃くらいです。
熔けたガラスは窯の中で光り輝いて、とても美しい姿をしています。
液体になったガラスのコントロールは難しくて、何事も一筋縄にはいきませんが、素材の動きから生まれる柔らかなフォルムと、透明なガラスの力強い表情を、日々の暮らしの中で感じていただけたらいいなと思います。

あと、季節によって日差しの色が変わると、ガラスの見え方も変わるんです。
夏の強い日差しで見るときらきらと涼やかさ感じるし、春や秋の柔らかい日差しで見ると優しい表情になります。
冬の光で見ると、凛とした表情に緊張感を感じてみたり。
それこそが、透明なガラスならではの楽しみ方。
「ガラスは夏のもの」というイメージはもったいない!
春夏秋冬、「その時期にしか見ることのできないガラスの色」というものがあるので、生けた植物も水の表情もお料理も、ガラスを通してその変化を感じて楽しんでいただけたら嬉しいです。

hono(ホノ)/大家さんが暮らす「山陰地方の豊かな自然を掌の中におさめる」というイメージで、制作された花器


わたしのArts&Crafts

15年ほど愛用している牛尾範子さんのピッチャー。
一目惚れして以来、いつも眺められ直ぐ手に取れるところに置いています。
取っ手が壊れたこともあったけど、自分でちょこちょこ直しながら使っています。
姿が美しいのはもちろんのこと、持ち手や水切れの良さも素晴らしいのです。
たっぷりコーヒーを淹れる時や、冷たいお茶を入れてみんなに分けたり、ときには野菜スープを入れて冷蔵庫で一時保存したりして日々大活躍のピッチャーです。

大家具子(おおや ともこ)|ガラス作家

1977年 兵庫県神戸市出身
1999年 日本クラフト展入選
2000年 倉敷芸術科学大学 芸術学部工芸学科ガラスコース卒業
以降、ガラス工房のスタッフとして勤務しながら、全国のギャラリー・セレクトショップ・デパートなどで個展やグループ展を開催
2016年 鳥取県倉吉市にて、アトリエショップsaonをオープン

Instagram|@goocoglass

2021.10.13

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